by top40fmt

英語版wikipediaではradio format(ラジオフォーマット)についての一般的な解説がありますが、ウィキペディア日本語版には説明のページがないので書きます。

ラジオフォーマットは、主にラジオ局が多いアメリカのラジオ局で採用されている、番組を構成する様式です。音楽局では、流す音楽のジャンルです。インターネットラジオでも標準になっています。

アメリカでは国土が広く、人口も多いので放送局はAM局4680局、FM商業局6715局、FM非商業局4096局(2016年3月末現在)と数は膨大になります。多くの人の趣向に合わせてラジオを聴いてもらえるように番組を構成する様式が細分化されています。

商業ラジオ局では、それぞれのターゲットの人に効果的に広告を放送することができます。非商業ラジオ局の音楽局では商業局が扱わない(儲からない)クラッシック音楽やジャズをかけることもあります。

音楽局では、ラジオフォーマットは規則ではないので、流す音楽の傾向を示しているものですが、局や番組によって構成にゆらぎがあり、また時代により取り扱う年代が変化したり、新しいラジオフォーマットが加わったりします。

放送局のラジオフォーマットの変更は時に行われます。Rock(ロック、ロックミュージック)を流していた局がある時にカントリーに、また、ある時点で買収されクリスチャン信仰の局に変わったりすることもあります。

当サイトの「ラジオが一番好きなアメリカ人」でも掲載したニールセンの調査"Audio Today 2019"にラジオフォーマットのランキングが発表されていますが、主なラジオフォーマットは以下のようになります。
(かっこ内)は日本語版のwikipediaに記載のあるものです。
アメリカの音楽に関しての記載については英語版wikipediaに比べ、内容が割愛されている、差異がありすぎる、不正確であると思われる...等という理由があり参考にしておりません。

以下に順次説明していきます。

背景

各フォーマットを説明する前に、音楽的、社会的背景を少し書きます。
現代のアメリカのポピュラー音楽、つまり商業的に流通し広く知られている音楽は、全てアフリカ系アメリカ人が発展させたblues、ゴスペルやJazzに影響を受けているのが特徴です。

ヨーロッパ諸国にはアフリカに植民地があるにしても本国にはアフリカ系民族の移入が少ないため、アメリカのように一般大衆が文化的にアフリカ系民族に直接的な影響を受けた流れはほぼなく、そのことから現代のヨーロッパのポピュラー音楽はアメリカの音楽から間接的に影響された音楽が多かったと考えられます。

1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定され、長年アメリカで続いてきたアフリカ系アメリカ人の法の上での人種差別は撤廃されますが、これに遡ること10年前、1954年頃から、音楽に敏感な都市部の若者の間ではアフリカ系アメリカ人起源のRock 'n' Roll(ロックンロール)やDoo-wop(ドゥーワップ)が流行りだします。1954年より少し前の時代は、白人とアフリカ系アメリカ人の聴く音楽は全く異なっていたのです。

1954年を遡ること7年前の1947年には、アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガー、ジャッキーロビンソン(背番号42)が活躍します。アフリカ系アメリカ人の活躍はスポーツや音楽を通してこの頃から少しずつ世間に浸透して言ったと言ってよいでしょう。

人種差別撤廃運動という社会の現象もうねりも加わり、今も昔も若い世代は、良いものは良いと意思を示す、親の世代が聞いていない音楽を聴く、親の世代の主流の価値観を否定し新しい価値観を持つ、すなわちカウンターカルチャーの傾向が音楽に強く反映されてさます。

カウンターカルチャーとしての音楽はラジオによって普及します。今も昔もラジオ局の数はテレビ局に比べ多く、手軽に聴くことができ、1950年代中盤に当時発売されたいくつかのトランジスタラジオは高価でしたが、若者は自身の部屋で親から離れてロックンロール聴くことができました。彼らはラジオで聞こえてきた音楽はどのような人種が歌っているのか、ということよりも直観的にノレるかノレないかの判断が下されていきました。

当時、流行の先端を行くティーンエイジャーは隠れてラジオを聴いていました。
新しい音楽が芽生え始め、商業的に規模が無視できなくなったところで、アフリカ系アメリカ人が作るロックンロールの性的な暗示を多く含んだ歌詞を心配する白人の親が多かったようで、その親たちが安心できる白人のRockabilly(ロカビリー)アーティストやロカビリーに方針転換した白人歌手が1954年から1957年にかけて出てきます。この時期は白人の音楽業界関係者がアフリカ系アメリカ人のアーチストの著作を安く買いたたいて、歌詞も元から変わったものがありました。

1960年代前半は、黒人は白人層に売るためによりメロディが中心の明るく少し白っぽい音楽を、白人はそれまでは、甘ったるいムード音楽のような、ヨーロッパの民族音楽調のような、ジャズのスタンダードナンバーのような、ティーンから見れば古臭い、ダサい、退屈な音楽でしたが、それよりもリズムが強くメリハリのある、少し黒っぽくしたような音楽が好まれていき、Hot 100のチャート全体像としてはだんだんと人種間の音楽の差異が少なくなっていきます。そのような混沌とした状況が進歩し1960年代中盤頃にはロックミュージックとして発展していきます。

そこで大きな役割をするのがレコードレーベルです。Atlantic Records(1947-)、Chess Records(1950-1975)、Stax Records(1957-)、Motown(1959-)の登場です。別に機会があれば説明することにします。

1964年、ビートルズを代表格とするロックミュージックがアメリカに進出して、ヒットチャートを独占する第一次ブリティッシュインベイジョン(英国音楽の侵略)が到来したのです。

1954年頃のロックンロールやドゥーワップ、1960年頃のロックの創成期、1964年頃からロックの普及期に入り、その後の技術革命によって(マルチトラック録音、エフェクターの進化、サンプリングマシンなどにより)表現方法も多様になり、これが現在のポピュラー音楽に繋がっていきます。

この項目のまとめ

  • アメリカのポピュラー音楽は、商業的に流通し広く知られている音楽である
  • アメリカのポピュラー音楽は、アフリカ系アメリカ人の音楽の影響を受けている
  • 1954年以降のロックンロールやドゥーワップは現代の若者のカウンターカルチャーの創成期である
  • アフリカ系アメリカ人が始めたロックンロールがヒリベリーミュージック(今のカントリー)と合体してロカビリーに進歩し、やがてロックになっていく
  • 技術革命も音楽の変化に多大な影響を与えた
  • ロックンロールからロックの創成期、ロックの普及期は社会のうねりも大きかったが、音楽のうねりも大きかった

ヒットチャート

1943年9月4日号
表紙: Count Basie
ヒットチャートとは、音楽業界誌のBillboard社が毎週発行するBillboard Magazine(以下Billboard誌)に掲載されている現在人気のある上位100曲が掲載されている順位表(チャート)をHot 100といいます。現在のHot 100は、米国でCDなど小売店で販売される物理メディアとデジタル販売、ラジオでの放送、オンラインでのインターネットでの視聴を基に集計されています。

Billboard誌はHot 100のチャートを掲載し始めたは1958年からで以降発表されるようになり、そのチャートは、この時期すでに音楽産業の標準になりました。

それまでもBillboard誌は1940年から店舗でのレコードの売り上げを集計した"Best Sellers in Stores"があり、1955年以前には、他に2つ、放送でどれだけかかったのかを集計した"Most Played by Jockeys"、ジュークボックスの再生回数を集計した"Most Played in Jukeboxes"などがありました。

"Most Played in Jukeboxes"は、初期には多くのラジオ局が(リスナーよりも上の世代の白人経営者で占められていたために)ロックンロールをかけることを抵抗していたため、ジュークボックスの再生回数は若い世代の音楽リスナーの傾向を知る重要な手段でした。

1955年11月12日号、Billboard誌は、前述した3つのチャートを組み合わせている、"Best Sellers in Stores"に重きを置いたThe Top 100というチャートを発表します。

1957年6月17日号、Billboard誌はジュークボックスの人気が低下し、ラジオ局がロックンロール色を強めたたため、"Most Played in Jukeboxes"は廃止されます。

1958年10月13日号、Billboard誌は、Hot 100をオールジャンルのシングル盤のチャートとして掲載します。(1958年8月4日号にテスト版が発表されています。)
Hot 100はすぐに音楽業界の標準となり、"Best Sellers in Stores"を廃止します。

Billboard誌のHot 100上位のTop 40が一般の聴取者に認知されるようになったのは、1970年から放送されるAmerican Top 40がきっかけとなっています。
1992年9月まではTop 40というチャートは存在せず、Hot 100の上位40曲を特にTop 40といいます。

1992年10月3日号から1995年5月までTop 40/Mainstream とTop 40/Rhythm-Crossover(R&B系)というチャートが存在しました。両方共にラジオ局での放送回数を集計したものです。

2003年8月2日号に復活し、現在までTop 40/Mainstreamは存在します。現在のTop 40/Mainstreamチャートは、Nielsen Broadcast Data Systemsがラジオ局で放送されたデータを基に集計しているものです。

ラジオフォーマットの説明

CHR: Contemporary Hit Radio 別名: Top 40

Contemporaryとは現在の、という意味です。
つまりCHR: 現在のヒット曲を流すラジオという意味です。
CHR radio stationというよりもTop 40 stationと言われることが多いようです。
1980年代まではHot 100のうち上位40曲のTop 40が主導的な指標になっていたものの、音楽ジャンルが多様化したため、Hot 100やTop 40/Mainstreamは参考的な指標になっています。地域やラジオ局あるいは番組によって流れる曲が選定されていきます。

Country

ポピュラーミュージックの一分野とされ、country music、country and western、 hillbilly music(hillbilly: 貧困白人の意味)ともいわれます。
Rock 'n' RollHillbillyの合成語がRockabillyロカビリー)になります。ロカビリーはポピュラーミュージックのある短い時期の一分野です。

1920年代初期にアメリカ南部発祥とされ、アメリカの伝統音楽: イギリスのバラード、アイルランドとスコットランドの伝統音楽、賛美歌、そしてブルースを根源とする音楽です。※バンジョーはアフリカ系アメリカ人が生み出した楽器です。

現在ブルースと見なされている音楽形式とスタイルは、19世紀に米国南部の同じ地域で生まれました。 ブルースとカントリーミュージックは、レコード業界が「黒人は黒人、白人は白人」という音楽をそれぞれ販売するために「race music」と「hillbilly music」というマーケティングカテゴリを作成した1920年代まで遡ります。

Blues発生の初期段階ではCountry bluesと言うジャンルが生まれていました。
当時、BluesもCountry bluesもパフォーマーの民族性を除いて、「ブルース」と「カントリー」の間に明確な音楽的区分はありませんでした。1940年代後半になるとアフリカ系アメリカ人の趣向が強いリズムを持つRhythm and bluesになっていき、白人の趣向が現在に繋がるCountry musicになっていきます。

ラジオフォーマットではCOUNTRYのサブカテゴリーとして
  • Mainstream Country
  • Hot Country
  • Classic Country
  • Real Country
  • NASH Icon
に別けることがあるようです。
Countryは当サイトでは扱いがありませんが、Billboard誌のHot Country Songsに掲載の曲が、Hot 100に登場することがありますので、Countryを積極的に聴かない層でも知っている曲があるのではないかと思います。

AC: Adult Contemporary

heavy metalrap/hip-hopを除いた大人向けのヒット曲と考えれば良いでしょう。基本的には時代は1990年代(あるいは1980年代)から現在までとなることが多いです。

Billboard誌では、対応するチャート名は以下のように名前を変えています。
Easy Listening(1961–1962; 1965–1979)
Middle-Road Singles (1962–1964)
Pop-Standard Singles (1964–1965)
Hot Adult Contemporary Tracks (1979–1982)
Adult Contemporary (1983–現在)

HOT AC: Hot Adult Contemporary

CHRとACの中間と考えられていて、ACよりもよりエネルギッシュな表現とアップテンポな音で表現する楽曲です。2000年以降の曲が半分以上を占めることが多いです。

Urban Contemporary

Urban contemporary(アーバンコンテンポラリー)は、urban pop、urbanともいいます。
アフリカ系アメリカ人の人口が多い都市に展開されるラジオフォーマットです。いくつかの成功したアーバンアーティストは、ヒップホップや純粋なR&Bを作り続けながらTop40用のElectronic dance musicエレクトロニック・ダンス・ミュージック
も作っています。

アーバンコンテンポラリーは、R&BやSoul(ソウル)などを発展させてできたものです。
古くはrace music、race recordsと言われその後、Rhythm & Blues(R&B)に発展しています。ある一時期はSoulと言われていました。

Billboard誌では、以下のように名前を変えています。
Harlem Hit Parade — 1942年-1945年2月10日号
Juke Box Race Records — 1945年2月17日号-1957年6月17日号
Best Selling Race Records — 1948年5月22日号-1958年10月13日号
Rhythm & Blues — 1949年6月25日号-1963年11月30日号
R&B Most Played by Jockeys — 1955年1月22日号-1958年10月13日号
Hot R&B — 1958年10月20日号-1963年11月30日号、復活1965年1月30日号-1969年8月16日号
Soul Singles — 1969年8月23日号-1973年7月7日号
Hot Soul Singles — 1973年7月14日号-1982年6月19日号
Hot Black Singles — June 26, 1982年6月26日号-1990年10月
Hot R&B Singles — 1990年10月 - 1998年Hot R&B/Hip-Hop Songs — 1998年から現在

Rhythmic CHR

Rhythmic Top 40, Rhythmic CHR or rhythmic crossoverとも呼ばれ、テンポが速くリズミカルなポップ 、 ヒップホップ 、R&Bのジャンルが混ざったような曲です。 基本的には、CHRとURBAN Contenporaryの間のような傾向になります。

Classic Rock

1960年代中盤から1980年代のロックを指します。曲によってはOldiesやClassic hitsと重複します。基本的にはアメリカで受け入れられているハードロックに重点を置きます。

News/Talk

ニュース、トークに特化した番組です。トークは政治的な話題や討論、スポーツに関する話題などを提供します。政治的な話題はAM局が多いですが、近年FM局でも増加しています。

Classic hits

このフォーマットは2000年ごろ現れました。1960年代中盤から1990年代初めごろにヒットしたTop 40の音楽をかけるフォーマットです。曲によってはOldiesや古いACと重複します。

Contemporary Christian

Christian musicの下位概念でキリスト教にかかわる内容を叙情的に焦点を当てた現代のポピュラー音楽のジャンルです。Christian musicには、ロック色の強いChristian rock、都市部のアフリカ系のUrban Gospelがあります。ニールセンの調査"AUDIO TODAY 2019"では12歳以上全年齢のラジオフォーマット聴取ベスト20位中10位で一定の聴取人口はいるようです。

Oldies

概ね1954年前後から1970年代までの当時のTop 40が選曲の対象です。
1980年代、1990年代はOldiesといえば1954年ごろから1969年ごろ、あるいは1972年頃までsinger-songwriter時代の始まる前まで、とすることが多かったのですが、2000年を過ぎたころには1970年代は全て含むようになり、場合によっては1980年代初頭まで含むことがあります。最近のデジタル技術により、モノラル音源をステレオ化したり、古い音源を高音質にするdigital remasteringが行われ、これまでこれらの音楽を聴く機会が無かった層にも聴取する機会を作り出しました。

他のフォーマット

他にもスポーツ中継、メキシコ人向け、ヒスパニック向け、クラッシック音楽もニールセンの調査"AUDIO TODAY 2019"では12歳以上のランキングの20位以内に掲載があります。なお、OldiesとJazzはこの調査ではランキングに現れていません。

参考にした資料